交通事故の休業損害とは?自賠責や損保の計算は?有給は?
休業損害の算定には3つの支払い基準がある
最も高い裁判基準による休業損害を請求できるのは、弁護士だけ
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休業損害とは?休業損害の計算の方法は?
休業損害とは、交通事故のケガで仕事を休んだことにより減った収入のことです。
休業損害は加害者側に補償を請求できますが、金額算定で用いる3つの支払い基準のうちどれを使うかという点に加え、被害者の職業や収入、休業期間、実際に通院した日数などによって算出される金額が異なります。
では、次に実際の休業損害の計算方法を見ていきましょう。
休業損害の算定にあたっては、以下の3つの支払い基準があります。多くの場合、どの支払い基準で計算するかによって金額が異なりますので注意が必要です。
自賠責の休業損害の計算方法
自賠責保険による支払い基準で、3つの支払い基準のうち最低限の補償であり、
日額6,100円 × 休業日数
で計算します(注:2020年3月31日以前の事故は日額5,700円)。
なお、自賠責基準には休業損害を含む傷害部分の損害(治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料)について120万円の支払い限度額があります。
損保の休業損害の計算方法
任意保険会社が各社で独自に設けている支払基準です。
会社員(給与所得者)の場合には実際の休業分を計算して支払うことが多いですが、自営業者や主婦の場合には自賠責の日額6100円で計算した額を提示してくることも多く、会社役員の場合には認めないことが多いです。
弁護士基準の休業損害の計算方法
弁護士が示談交渉や裁判で用いる支払い基準です。被害者の事故前の収入をもとに基礎収入を算出し、
1日あたりの基礎収入 × 休業日数
で計算します。金額は、多くの場合、3つの支払い基準のなかで最も高額になります。
職業別の基礎収入算定方法
弁護士基準(裁判基準)で使用する基礎収入の算定方法は、職業により異なります。
会社員(給与所得者)のケース
給与所得者である会社員の場合、1日あたりの基礎収入は、
事故前3ヶ月の給与の総支給額 ÷ 90日
で計算します。
もっとも、時期によって給与が大きく変動する場合は、事故前1年間の給与の総支給額を平均して基礎収入を求める場合もあります。
また、賞与や住宅手当の減少、昇給の遅れといった損失や交通事故に起因する退職・解雇なども、事故との因果関係を証明することで休業損害として認められるケースもあります。
なお、会社員が休業損害を請求する際には、「休業損害証明書」の書式を保険会社から取り付け、勤務先に必要事項の記入を依頼し休業損害を証明してもらうことが必要です。
自営業者のケース
自営業者の場合、ケースバイケースではありますが、1日あたりの基礎収入は原則として、
事故前年の確定申告書記載の所得 ÷ 365日
で計算します。
また、固定経費も休業損害として請求できます。固定経費とは休業に関わらず支出がなされる経費のことで、具体的には以下の通りですが、経費のうちどこまでが固定経費として認められるかは、事業内容と事業形態により変わるため注意しましょう。
【代表的な固定経費】
- 地代家賃
- リース料
- 保険料
- 従業員の給与
- 税金
- 減価償却費
- 電気、ガス、水道代
主婦・主夫(家事従事者)のケース
専業主婦は実際の収入を得ていませんが、休業損害を請求でき、1日あたりの基礎収入は、
賃金センサス全年齢女性平均年収額 ÷ 365日
で計算します。
なお、男性である専業主夫の場合の基礎収入も、従事する家事労働の価値は女性である専業主婦の場合と同様と考え、公平性を期すために賃金センサスの「全年齢女性平均年収額」を用いて計算するのが通例です。
では、兼業主婦(主夫)の場合の基礎収入はどうなるでしょうか?兼業主婦(主夫)の場合は、以下の計算方法のうちいずれか高額な方を選んで請求します。
- 1.賃金センサス全年齢女性平均年収額 ÷ 365日
- 2.事故前3ヶ月の給与の総支給額 ÷ 90日
会社役員のケース
会社役員でも、一定の条件のもと休業損害の請求が可能です。
その条件とは、実際に役員報酬が減収しており、その役員報酬に労務対価部分が含まれていることです。
会社役員の役員報酬には、「利益配当部分」と「労務対価部分」の2つの異なる性質があります。利益の配当は、役員が休業しても支払われるため休業損害を請求できません。他方で、役員報酬に一般従業員のような労務の対価が含まれていれば、交通事故で減収した役員報酬のうち労務対価部分に限って休業損害を請求できます。
この場合、会社役員の場合の1日あたりの基礎収入は、1日あたりの労務対価部分を計算して算出します。
労務対価部分を計算するには、以下を総合的に勘案する必要があります。
- 1.会社の規模
- 2.会社の利益状況
- 3.役員報酬額
- 4.被害者の年齢、役職、職務内容
- 5.事故後の当該役員と他の役員の報酬額の推移
など
アルバイトの場合
アルバイトの場合、1日あたりの基礎収入は、
事故前3ヶ月の給与の総支給額 ÷ 稼働日数
で計算します。
アルバイトも会社員と同じく給与所得者に該当しますが、シフトにより給与に変動があるため、1日あたりの基礎収入を計算する際に、事故前3ヶ月の給与の総支給額を単純に90日で割ってしまうと、実際の収入よりも低額になることがあります。したがって、事故前3ヶ月の給与の総支給額を稼働日数で割って計算します。
無職者(失業者)のケース
事故の際に無職であったり失業していたりした方も、「就職先が内定済み」、あるいは「労働能力と就労意欲があり、事故がなければ就労していた蓋然性が高い」ケースでは、休業損害を請求できます。
就職先が内定済みのケースの1日あたりの基礎収入は、
賃金センサスまたは就職内定先の給与推定額 ÷ 365日
で計算します。
労働能力と就労意欲があり、事故がなければ就労していた蓋然性が高いケースでは、
賃金センサスまたは失業前の収入額 ÷ 365日
で計算します。
休業損害の日数の数え方
交通事故による受傷で休業し、入院や通院、自宅療養をした日を休業日数と言います。休業損害の計算において、休業日数は必要不可欠な要素です。
もっとも、治療した日数や自宅療養をした日数が全て休業日数に認定されるわけではありません。ケガの程度や内容、治療経過や職種などを総合的に判断して、初診日からケガの治癒または後遺障害の症状固定日までに就労できなかった日をカウントして算出します。
なお、症状固定後も定期的にリハビリを受けていたり、手術のために休業したりする必要がある場合は、症状固定後であっても例外的に休業損害が認められるケースもあります。
有給休暇を取って通院した分も休業損害は請求できる?
会社員(給与所得者)が有給休暇を取って入院や通院をした場合、休業損害は請求できるのでしょうか?
有給休暇を取っての通院も休業損害として請求可能
休業損害は、交通事故のケガで仕事を休んだことにより減った収入を指すため、実際に減収のない有給休暇の取得では、一見すると休業損害を請求できないようにも思えます。
しかし、もともと交通事故で受傷しなければ、治療のために有給休暇を取る必要はなかったはずです。本来であれば、有給休暇を自分のために自由に使用できたという点において、交通事故に基づく有給休暇の取得は経済的な損失と考えることができます。よって、有給休暇の取得も休業損害として請求が可能です。
通院のための有給休暇を半日取ったケース
なお、午前休や午後休として有給休暇を半日だけ取って通院した場合も、休業損害の請求が可能です。
この場合は、1日あたりの基礎収入をその日だけ半額にして請求することとなります。
通院せず有給休暇を取ると休業損害が認められない場合も
入院や通院をせず、医師から自宅療養の指示もないのに自己判断で有給休暇を取ってしまうと、休業損害として認められない場合があります。
とは言え、ケガの程度や内容、職種や就労環境次第では、通院せずとも休業が必要なケースもあります。
そのような場合は、休業の必要性を証明するために、医師から就労できない期間やケガの状態などを記載した診断書・意見書を作成してもらいましょう。これは、休業の必要性を証明できる医学的根拠となります。
休業損害をいつもらえる?支払われるのはいつまで?
事故日から治癒または症状固定日まで請求が可能
休業損害は、事故日からケガの治癒または後遺障害の症状固定日まで請求できます。
ただし、事故日から初診日までに時間が空いてしまうと、保険会社にケガと交通事故の因果関係を疑われてしまい、休業損害や治療費等でもめるケースもあります。
大したケガではない、痛みも弱いなどと思っても、後日症状が悪化する場合もありますし、交通事故で受傷したらすぐに病院に行くことが大切です。
休業損害の打ち切りに注意
もっとも、被害者が請求した休業損害のすべてが保険会社から支払われるとは限りません。
先に述べたとおり、休業損害が支払われるのは、ケガの治癒または後遺障害の症状固定までです。しかしながら、治療期間中でも、保険会社から休業損害の打ち切りを交渉される場合があります。
具体的には、ケガが交通事故によくある打撲、むちうち、骨折などの場合です。これらには保険会社に治療終了期間の基準があり、それを過ぎると休業の必要性なしと保険会社に判断され、打ち切りを打診されるケースが多いです。
けれども、治癒や症状固定を判断するのは主治医です。ですから、打ち切りを打診された際には、治療状況を保険会社に説明し休業の必要性を主張しましょう。
また、主治医に診断書や意見書を書いてもらうことで、休業損害の支払いを延長してもらえる可能性もあります。
休業損害は示談前でも先払い請求できる
休業損害は、損害賠償金の一部として、原則的には示談成立後に支払われることになっています。しかし、事故により収入が減ってしまうと、被害者は生活費に困ってしまいます。
そのため、休業損害証明書など休業損害を証明できる書類を保険会社に提出することで、休業損害を先払いしてもらうことも可能です。この休業損害の一部を先払いしてもらう手続きのことを内払いと呼びます。
支払い時期は、必要書類の提出後1〜2週間程度です。もっとも、書類に不備があると支払い時期も遅れてしまいます。書類提出時には内容をしっかり確認することが大切です。
適正な休業損害の請求で弁護士への相談が重要な理由
交通事故の休業損害の請求手続きを進める際は、弁護士に相談することが重要です。
休業損害の計算方法は、職業や収入によって異なる他、被害者の方の年齢・就労・生活状況などをふまえ、加算や減算が必要となるケースもあります。被害者の方それぞれの状況をふまえた上で、最も高い裁判基準による休業損害を請求できるのは、弁護士だけです。
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このコンテンツの監修
弁護士法人法律事務所リンクス
代表弁護士 藤川 真之介
交通事故の被害者の救済に取り組む。特に後遺障害等級の獲得に注力し、担当した裁判例が交通事故専門誌「自保ジャーナル」2048号等多数掲載。京都大学法学部卒業。2007年弁護士登録(日弁連登録番号35346)。京都弁護士会所属。2016年に交通事故被害者のための法律事務所として弁護士法人法律事務所リンクス(日弁連届出番号1030)創設。