相続が兄弟で不公平?遺産分割で格差がつかないようにする方法
実家を離れた二男が弁護士に依頼して遠方に住む長男との間で公平な遺産分割をした事例
「法律では兄弟は平等だと聞いているのに、なぜ兄ばかりが多くもらうのか?」
「親と同居していた姉が、預金を使い込んでいる気がしてならない」
「昔、弟だけが留学費用や住宅資金を出してもらっていた。これは不公平ではないか?」
親が亡くなり、いざ遺産分けの話になったとき、多くの兄弟姉妹がこのような「不公平感」に直面します。本来、民法では兄弟姉妹の法定相続分は均等(2人兄弟なら2分の1ずつ)と定められています。しかし、現実の相続においては、「家督相続的な古い慣習」「親の介護への貢献度」「生前贈与の有無」「財産管理の不透明さ」などが複雑に絡み合い、当事者間で大きな認識のズレ=「格差」が生じることが少なくありません。
特に、一方が実家の不動産や通帳を管理し、もう一方が遠方に住んでいるようなケースでは、情報の非対称性から疑心暗鬼が生まれやすく、感情的な対立が激化して「泥沼の争族」へと発展しがちです。
本記事では、兄弟間で生じやすい「相続の不公平」の正体と、それを法的に是正し、納得のいく公平な遺産分割を実現するための具体的な方法を解説します。
長男側でどのように相続を進めるべきかでお悩みの方は、「遺産相続は長男が優遇で多い?田舎の実家は長男が相続するもの?」をご覧ください。
相続で兄弟に不公平が生じる5つの典型パターンと解決策
「兄さんだけ家を買ってもらったのに」「私だけが母さんの介護をずっとしてきたのに」こうした不公平感は、感情的な対立だけでなく、法律に基づいた主張(主張立証)を行うことで解消できる可能性があります。
| 不公平のパターン | 法律上の解決策 | 概要 |
| 1. 介護や看護の負担が偏っている | 寄与分(きよぶん) | 親の財産の維持・増加に貢献した場合、その分を上乗せする。 |
| 2. 生前に多額の援助を受けた兄弟がいる | 特別受益(とくべつじゅえき) | 生前贈与を「遺産の先渡し」とみなし、持ち戻して計算する。 |
| 3. 遺言書で一人の兄弟に偏った指定がある | 遺留分(いりゅうぶん) | 最低限保障された相続分を、もらいすぎた人に請求する。 |
| 4. 財産が不動産ばかりで分けられない | 代償分割(だいしょうぶんかつ) | 不動産を継ぐ人が、他の兄弟に現金(代償金)を支払う。 |
| 5. 長男が相続財産を独占めしようとする | 法定相続分(ほうていそうぞくぶん) | 法定相続分に応じた遺産分割を主張する。 |
1. 介護などの貢献を評価する「寄与分」
「長女の私だけが仕事を辞めて10年介護したのに、何もしなかった弟と同じなのは納得いかない」といったケースです。
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解決のポイント: 「寄与分」を主張します。ただし、単なる親孝行の範囲ではなく、「本来ならプロ(介護職)を雇うべきところを無償で担い、親の財産(介護費用)が減るのを防いだ」*といった、財産的な維持・増加への寄与が必要です。
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必要な準備: 介護記録、日記、医療費の領収書など、どの程度の期間・頻度で介助を行っていたかの証拠を揃えることが重要です。
2. 生前贈与の不公平を正す「特別受益」
「長男だけ大学の学費や住宅購入資金を出してもらった」という場合、残った遺産を均等に分けると、トータルの受取額に大きな差が出ます。
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解決のポイント: 「特別受益の持ち戻し」を行います。生前贈与分を一度「仮想の遺産」として戻して計算し直すことで、「既にもらった人は、今回の取り分を減らす」という調整を行います。
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注意点: 親が「持ち戻さなくて良い(贈与分は計算に入れなくて良い)」という意思表示(持戻し免除の意思表示)をしていた場合は、この調整が難しくなることもあります。
3. 不当な遺言に対抗する「遺留分」
「全ての財産を長男に相続させる」といった極端な遺言書が見つかった場合でも、諦める必要はありません。
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解決のポイント: 遺留分侵害額請求を行います。兄弟姉妹以外の法定相続人(子供、配偶者、親)には、法律で最低限の取り分(遺留分)が保障されています。
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期限に注意: 遺留分の請求には期限があります。「相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内」に行使しなければなりません。
4. 不動産をもらわない相続人がもらえる「代償金」
相続財産の大部分が自宅などの不動産である場合、物理的に切り分けることは困難です。「家を売りたくない、でも公平に分けたい」という状況で有効なのが代償分割です。
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仕組み: 特定の相続人が不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して、その価値に見合うだけの現金を自分の持ち出し(代償金)として支払います。
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メリット: 住み慣れた家や土地を売却せずに守ることができ、同時に他の相続人の不公平感も解消できます。
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注意点: 不動産を継ぐ人に、代償金を支払うだけの資金力があることが前提となります。
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ポイント: 不動産の評価額(いくらとみなすか)を巡って争いになることが多いため、あらかじめ適正な査定価格を把握しておくことがスムーズな話し合いの鍵となります。
5. 法律で定められた割合での分割を求める「法定相続分」
「長男が全ての遺産を独占しようとしている」「親の面倒を見たのだから自分だけが貰うべきだと言い張る」といったケースは少なくありません。しかし、現在の日本の法律では、兄弟姉妹の相続権は原則として平等です。
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法定相続分とは: 民法によって定められた、各相続人が受け取れる目安の割合です。例えば、相続人が子供だけ(3人)の場合は、各3分の1ずつとなります。
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毅然とした対応: 相手が強硬な態度であっても、まずは「法定相続分をベースに話し合いたい」と明確に伝えることが大切です。
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調停の役割: 当事者同士では話が平行線になる場合、家庭裁判所の調停を利用することで、法的なルール(法定相続分)に基づいた公平な解決案を提示してもらえます。
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ポイント: 昔ながらの「家督相続」の意識が残っている親族に対しても、感情論ではなく「現在の法律上の権利」を軸に話を進めることで、冷静な議論の土台を作ることができます。
次に、そのモデルケースとして、実際に「長男から一方的に不公平な条件を突きつけられ、さらに遺骨の引き渡しも拒否される」という過酷な状況に追い込まれたあるご家族(二男)の事例をご紹介します。
第1章 【実録】「兄だけが得をする」理不尽な要求:格差是正への戦い
ここからは、実際に当事務所が解決のサポートを行った事例をもとに、不公平な相続トラブルの実態と解決策を見ていきます。
1.1 相談のきっかけ:法定相続分を無視した「不公平な通告」
今回の相談者である「二男」の方は、地方都市(Y市)にある実家を若くして離れ、現在は関西地方で家庭を築いていました。実家には、父が亡くなった後、「長男」である兄が母と同居し、家を守ってきました。二男は、遠方ゆえに母の介護を手伝えなかった負い目もあり、長男には感謝していました。
2022年1月、母が他界しました。
葬儀を終え、四十九日が過ぎた頃、長男から二男のもとに遺産分割に関する連絡が入りました。しかし、その内容は二男の想定していた「兄弟仲良く半分ずつ」とはかけ離れた、あまりに一方的で不公平なものでした。
父の相続の清算の要求
「お前は昔、親父が死んだ時にいい土地をもらって売却益を得ただろう。だから今回の母さんの遺産については、預貯金も不動産も遠慮してくれ。それが公平というものだ」
長男が主張したのは、20年以上も前に完了したはずの「父の相続」の話でした。当時、二男は父の遺産として郊外の土地を相続し、後にそれを売却して利益を得ていました。長男はそれを長年根に持っており、「あの時の得を、今回の母の相続で差し引くべきだ」と迫ってきたのです。
一方的な経費の控除と使途不明金
長男は、遺産の預貯金から、葬儀費用だけでなく、母が施設で使用していたという物品の整理費用や、長男自身が立て替えたと主張する父の借金(100万円)、さらには自身の携帯電話代までも差し引くと主張しました。また、「将来、実家を解体する費用がかかるから、あらかじめ遺産から引く」とも言ってきました。これらが認められれば、二男が受け取る遺産は限りなくゼロに近づき、長男との間に数千万円規模の「格差」が確定してしまいます。
1.2 格差の決定打:「遺骨」を人質にした交渉
二男が「父の時の話は終わっているはずだ。今回は法律通り公平に分けたい」と反論すると、長男の態度は一気に硬化しました。そして、二男を黙らせるために、最も卑劣なカードを切ってきました。
「俺の条件(父の時の精算)を飲まないなら、母さんの遺骨は渡さない。納骨の日取りも教えない。お前には墓参りもさせない」
実家の鍵、通帳、実印、そして母の遺骨。すべてを握っているのは長男です。
「このままでは、母の遺産を一銭ももらえないという経済的な不公平だけでなく、母を供養する権利さえ奪われてしまう」
二男は、「父の時の相続は当時適正に終わったはずであり、今回の母の相続とは関係ないはずだ」「遺骨を人質に取るようなやり方は納得できない」と悩み、当事務所への相談を決意されました。
この事例には、兄弟間の相続格差を生む「3つの典型的な要因」が含まれています。
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「過去の蒸し返し」: 終わったはずの過去の贈与や相続を持ち出し、現在の取り分を減らそうとする。
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「使途不明金」: 財産管理者が不透明な支出や使い込みを行い、遺産そのものを減らしてしまう。
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「祭祀の私物化」: 遺骨やお墓を交渉材料にして、心理的な圧力をかける。
次章からは、二男から依頼を受けた法律事務所リンクスの弁護士が、これらの要因によって生じる格差を、遺産分割調停においてどのように是正していったのかを解説します。
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第2章 不公平の是正①:「過去の相続の蒸し返し」は通用しない
2.1 「父の時の得」を「母の遺産」で引くことはできるか?
本件の最大の争点は、長男が主張する「父の相続時の不公平の是正」です。
長男の理屈は、「家族全体での生涯収支を見れば、昔得をした二男は、今回は我慢すべきだ」というものです。感情的には理解できる部分もあるかもしれませんが、法的にはどうなのでしょうか。
結論から言えば、「父の相続」と「母の相続」は、法的に全く別の手続きであり、原則として混ぜて考えることはできません。
父が亡くなった時点で遺産分割協議が成立し、登記などが完了している以上、その件は法的に「解決済み」です。たとえ当時、長男が不満を持っていたとしても、数十年後の母の相続において、その不満を理由に遺産分割の割合を変えることは認められません。
もしこれを認めてしまえば、「あの時お前にお菓子を買ってやった」「兄貴は大学に行かせてもらった」など、際限のない過去の遡及が始まり、遺産分割は収拾がつかなくなってしまいます。
2.2 「特別受益」の主張と2019年法改正(10年ルール)
では、長男の主張を「二男への生前贈与(特別受益)」として構成した場合はどうでしょうか?
「二男は父親の相続の際に母親から相続分の譲渡を受けたから、それを遺産の前渡し(特別受益)として計算に含めるべきだ」という主張です。
ここで重要になるのが、近年の民法改正によって導入された「期間制限」のルールです。
かつては、何十年前の贈与であっても特別受益として持ち戻すことが可能でしたが、これが紛争長期化の原因となっていました。そこで法改正により、以下のルールが適用されることになりました。
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遺留分侵害額請求: 特別の受益の持ち戻しは、原則として相続開始前10年以内の贈与に限定(2019年7月施行)。
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遺産分割協議: 相続開始から10年を経過すると、原則として特別受益の主張ができなくなる(2023年4月施行、ただし経過措置あり)。
本件の場合、父の相続やそれに伴う土地の売却は20年以上前の出来事です。そもそも「母からの相続分の譲渡」と構成することが難しいですが、仮に母からの相続分の譲渡と認められるとしても期間の壁があります。
担当弁護士は、長男に対し「お兄様の『割り切れない気持ち』は理解しますが、裁判所の実務では、父の相続と母の相続は明確に区別されます。過去の話を蒸し返すのではなく、今回の遺産を適正に分けることに集中しましょう」と、法的な線引きを明確に伝えました。
【格差是正のポイント】
兄弟から「昔お前は多くもらった」と言われても、安易に譲歩してはいけません。それが「誰からの」「いつの」「どのような趣旨の」贈与なのかを精査し、法的根拠のない「感情的な相殺要求」はきっぱりと断る勇気が必要です。
第3章 不公平の是正②:「消えた預金」を取り戻す方法
3.1 疑惑:見えないところで遺産が減っている
次に問題となったのが、不透明な資金の流れです。二男が弁護士を通じて調査したところ、以下の事実が判明しました。
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母が亡くなる直前・直後に、ATMや窓口で約180万円〜200万円の現金が引き出されている。
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長男は「葬儀費用に使った」などと言うが、領収書や証拠が出てこない。
これらは「使途不明金(使い込み)」の典型例です。もしこれを見過ごせば、二男は「本来あるはずだった遺産」の半分を受け取れなくなり、長男との間に「使い得」による大きな格差が生まれます。
3.2 使途不明金を解決する切り札:民法906条の2
従来、このような「使い込み」を遺産分割で取り戻すのは非常に困難でした。別途、地方裁判所で「不当利得返還請求訴訟」を起こす必要があり、時間と費用がかかるため、泣き寝入りするケースが多かったのです。
しかし、2019年の法改正で新設された民法906条の2が、この状況を一変させました。
【民法第906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)】
共同相続人の一人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分したときは、他の共同相続人全員の同意があれば、その処分された財産が遺産の分割の時に存在するものとみなすことができる。
この条文により、長男が勝手に引き出したお金を「まだ金庫にあるもの」とみなして、遺産分割の話し合い(調停)の中で一括計算できるようになったのです。
【具体的な是正イメージ】
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現在の預金残高:2,500万円
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長男が勝手に使った額(使途不明金):200万円
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みなし遺産総額:2,700万円
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公平な取り分(1/2):1,350万円
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実際の分配:
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二男は、残高2,500万円から 1,350万円 を受け取る。
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長男は、残りの 1,150万円 を受け取る。(※既に使い込んだ200万円と合わせれば、長男も1,350万円もらったことになる)
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弁護士はこの条文を根拠に、「使途の説明がつかない出金については、すべて長男が『先取り』したものとして計算します」と主張しました。これにより、長男の「使い得」を許さず、数字の上での完全な公平性を確保することができました。
第4章 不公平の是正③:「遺骨」を巡る争いと心の解決
4.1 遺骨の引渡し拒否という「禁じ手」への対処
金銭的な格差以上に二男を苦しめたのが、「金銭条件を飲まなければ遺骨は渡さない」という長男の態度でした。
法律上、遺骨やお墓を受け継ぐ人を「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」と呼びます(民法897条)。通常は慣習により長男がなることが多いですが、これを「遺産分割の交渉カード(人質)」として使うことは許されません。
過去の裁判例でも、正当な理由なく遺骨の引渡しを拒絶し、他の親族の墓参を妨害する行為に対し、慰謝料の支払いを命じたケースがあります。遺骨に対する遺族の「敬愛追慕の情」は、法的に守られるべき権利だからです。
4.2 「私が引き取る」という決断
当初、二男は「長男が実家を守るなら、お墓も長男に任せよう」と考えていました。しかし、遺骨を取引材料にする兄の姿を見て、考えを改めました。「こんな兄に母の遺骨を任せてはおけない」と。
そこで弁護士は、調停の場で次のような提案を行いました。
「二男が祭祀承継者となり、母の遺骨を引き取る。その代わり、長男は今後一切、供養に関する費用負担も義務も負わなくてよい」
実は長男の本音は、「面倒な墓の管理や法要の手配をしたくない」「金がかかるのは嫌だ」というものでした。この提案は、長男にとっても「面倒事から解放される」というメリットがありました。
結果として、「二男が遺骨を引き取り、関西で手厚く供養する」という合意が成立しました。これにより、二男は金銭的な公平性だけでなく、精神的な平穏も取り戻すことができたのです。
第5章 解決へのプロセス:弁護士介入から調停成立まで
ここでは、実際の時系列に沿って、どのように事態が動いたかを解説します。
5.1 受任通知の送付と任意の交渉(SMS・書面のやり取り)
まず、当事務所の弁護士名で長男に対し「受任通知」を送付しました。これにより、長男から依頼者への直接の連絡(威圧的なSMSなど)は停止しました。
任意の交渉段階では、長男は「自分は弁護士など雇わない」「裁判でも何でもしろ」と強気な姿勢を見せていましたが、弁護士が法的な計算根拠(法定相続分)を示すにつれ、自身の要求(父の時の精算)がいかに法的に通りにくいかを徐々に認識し始めました。
しかし、長男は感情的に納得せず、話し合いは平行線をたどりました。ここで時間を浪費することは得策ではないため、当事務所は速やかに「遺産分割調停」の申立てを行いました。
5.2 遺産分割調停の申立てと期日の推移
調停は、遠方にある相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てられました。遠方にある場合でも、ウェブ会議や電話会議システムを利用して出頭することができるので、依頼者の経済的負担は少なくすることができます。
- 第1回〜第2回期日: 相手方は「父の時の800万円を引け」と繰り返し主張。調停委員が「それは別の相続の話です」と諭しても納得しない状況が続きました2。
- 第3回期日: 当方が「使途不明金(約186万円)」と「祭祀承継」の問題を正式に書面で主張。「使途不明金を不問にする代わりに、遺産分割での譲歩と遺骨の引き渡しを求める」という和解案を提示しました2。
- 第4回期日: 裁判官と調停委員からの強い説得もあり、長男がついに折れました。自身の金銭的要求が通らないことを悟り、早期解決を選択しました。
5.3 最終的な解決内容:格差のない結末
調停成立により確定した分割内容は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 不動産 |
長男:実家(土地・建物)を取得
二男:郊外の土地(更地)を取得 |
| 預貯金 | 二男:約2,500万円の預金・出資金を全額取得 |
| 代償金 | 二男→長男:不動産価値や使途不明金を調整するため、二男が長男に約742万円を支払う。 |
| 祭祀(遺骨) | 二男が承継し、母の遺骨を引き取る。 |
一見、二男が多く現金をもらっているように見えますが、これは「長男が取得した不動産」や「長男が使い込んだ不明金」を考慮し、実質的にきっちり2分の1ずつになるよう調整された結果です。
長男の当初の要求(二男の取り分はほぼゼロ)を完全に跳ね返し、正当な権利を守り抜いた勝利でした。
第6章 兄弟間の相続格差をなくすための「5つの鉄則」
最後に、本事例から得られる教訓として、兄弟間の不公平な相続を防ぎ、格差を生まないための5つのポイントをまとめます。
鉄則1:不公平な提案には「即答」せず、法的根拠を確認する
兄弟から「長男だから多くもらう」「お前は生前贈与を受けたから辞退しろ」と言われても、その場ですぐにハンコを押してはいけません。一度合意してしまうと、後から覆すのは困難です。「一度持ち帰って検討する」と伝え、専門家に相談してください。
鉄則2:「過去の蒸し返し」は期限(10年)を意識する
「昔あれを買ってもらった」という話は、法律上の「特別受益」に当たるかどうかが鍵です。さらに、2019年の法改正による「10年ルール」により、古い贈与は遺産分割の計算に持ち込めない可能性が高まっています。法律を盾に、過去の清算を断ち切りましょう。
鉄則3:親の預金履歴は必ず「過去10年分」取り寄せる
使途不明金は、不公平の温床です。金融機関から過去の取引履歴を取り寄せ、不自然な出金がないかチェックしましょう。証拠さえあれば、民法906条の2を使って、調停の中で取り戻すことができます。
鉄則4:遺骨を人質にされたら「祭祀承継者の指定」を申し立てる
遺骨の引渡しを拒否された場合、感情的に争っても解決しません。家庭裁判所に「祭祀承継者の指定」を申し立てれば、誰が供養すべきか(誰が遺骨を持つべきか)を法的に決めてもらえます。
鉄則5:感情的な相手には「弁護士」という防波堤を置く
当事者同士では、どうしても「兄と弟」「過去の恨み」という感情が邪魔をして、冷静な計算ができません。弁護士を代理人に立てることで、議論を「感情」から「法律と数字」の土俵に移すことができます。これが、最短で公平な解決にたどり着くための近道です。
結び:平穏な日常を取り戻すために
二男の方は、調停終了後、関西の自宅近くの寺院に母の遺骨を納骨し、ご家族と共に静かに手を合わせているといいます。
「兄との縁は事実上切れてしまいましたが、母との時間は守られました。それだけで、戦った意味がありました」
そう語る二男の表情は、相談当初の悲痛なものから、穏やかなものへと変わっていました。
相続における「公平」とは、単にお金を1円単位で割ることだけではありません。
過去のわだかまりに区切りをつけ、理不尽な要求に屈することなく、自分自身の権利と尊厳を守ること。それが、これからの人生を前向きに歩むための「公平さ」なのです。
もし今、あなたが兄弟間での不公平な相続に悩んでいるなら、どうか一人で抱え込まないでください。法律は、声を上げるあなたの味方です。
兄弟間の相続トラブルに関するFAQ(よくある質問)
Q1. 親の介護を一人でやったのですが、その分遺産を多くもらえますか?
A. 「寄与分(きよぶん)」として認められる可能性がありますが、ハードルは高いです。 単に「同居して面倒を見た」程度では、家族としての扶養義務の範囲内とされ、金銭的な評価(寄与分)は認められにくいのが実情です。「仕事を辞めて介護に専念した」「本来かかるはずだったヘルパー費用を年間数百万浮かせた」といった具体的な経済的貢献の証拠が必要です。まずは弁護士にご相談ください。
Q2. 兄が「生前贈与は時効だから関係ない」と言っていますが本当ですか?
A. 遺産分割においては「10年」の期間制限が新設されました。 2023年4月施行の改正民法により、相続開始(親の死亡)から10年を経過すると、原則として特別受益(生前贈与)の主張ができなくなり、法定相続分で分けることになります。ただし、10年以内であれば過去数十年前の贈与でも主張できる可能性があります(遺留分侵害額請求の場合は10年以内の贈与に限られます)。ケースバイケースですので専門家の判断が必要です。
Q3. 親が「全財産を長男に譲る」という遺言書を残していました。諦めるしかありませんか?
A. 「遺留分(いりゅうぶん)」を請求できる権利があります。 兄弟姉妹以外の法定相続人(子や配偶者)には、最低限の遺産を受け取る権利である「遺留分」が法律で保障されています。遺言書があっても、本来の相続分の半分(または3分の1)程度を金銭で請求することが可能です(遺留分侵害額請求)。ただし、相続を知ってから1年以内という期限があるので注意してください。
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このように、被相続人の長男の遺産相続には様々な難しい問題がありますので、遺産相続に強い弁護士への無料相談をされることをお勧めしております。
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