遺留分計算での不動産の評価方法は?判例は相続開始時の時価?

遺留分は不動産の評価で大幅に変わる。弁護士に早めに無料相談を!

遺留分計算での不動産評価は、相続開始時の時価によるのが原則ですが、当事者が合意すれば路線価や固定資産税評価額などを参考に上乗せした価格で交渉することがあります。交渉で決まらない場合には調停で話し合い、それでも難しければ不動産鑑定士に時価を評価してもらうことになります。

遺産に不動産が含まれる場合、その評価額の確定は遺留分のトラブルを解決する上で重要なポイントの1つです。不動産は一般的に高額な資産であり、評価方法の違いによって総資産額が大きく変動するためです。評価額がわずか1割変動するだけでも、請求できる遺留分侵害額は数百万円単位で変化する可能性があります。

 このページでは、法律事務所リンクスの遺留分侵害額請求に強い弁護士が、遺留分の算定における不動産の評価方法を解説した上で、遺留分として600万円しか支払われないと言われた相続人が1550万円の支払を受けることに成功した事例をご紹介します。

相続財産に不動産しかない場合の遺留分請求については「遺留分は不動産しかない場合でも現金化できる!土地で払うを回避するには?」をご覧ください。

不動産の評価が遺留分トラブルで大事になる理由

遺留分は、法定相続人が取得すべき最低限の取り分を保障するものであり、その算定基礎となる財産総額が最終的な請求額を決定します。不動産の評価が争点となる最大の理由は、相続人双方の利害が評価額の高低に直結するためです。

請求する側(遺留分権利者)は、遺留分侵害額を最大化するために、不動産の評価額を高くしたいと考えます。そのため、市場で実際に取引される価格、すなわち時価(実勢価格)を客観的な評価基準として主張します。

一方、請求される側(受遺者や受贈者)は、支払うべき金銭(代償金)を抑えるため、可能な限り不動産の評価額を低く抑えたいと考えます。この際、相続税路線価や固定資産税評価額といった、時価よりも低い公的評価額を主張することが一般的です。

特に、請求される側が実家や居住用不動産など、特定の不動産を売却することなくそのまま保有したいという強い動機を持っている場合、金銭での支払いが困難になるため、低評価額に固執しようとします。

リンクスの弁護士が担当した解決事例においても、遺留分を請求された二女は、財産情報(通帳など)の開示を拒否し、遺留分として600万円しか支払わないと一方的に主張していましたが、適正な評価額を査定した結果、1550万円の獲得に成功しました。

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遺留分計算に用いられる不動産の5つの評価方法と法的比較

交渉段階における遺留分計算において考慮される主な評価方法は以下の5つです。

固定資産税評価額

固定資産税評価額は、市町村が固定資産税を課税するために使用する評価額です。時価との乖離が最も大きく、時価の6割から7割程度に設定されていることが一般的です。

これは、遺留分交渉においては、被請求者側が支払いを抑えるために低い評価を主張する際の根拠として使われることが多いですが、法的効力は弱く、裁判で時価を代替することはありません。

交渉段階で固定資産税評価額を遺留分の計算の基準として用いる際は、6割から7割で割り戻した額を時価とみなすことがあります。

路線価

路線価は、国税庁が設定する、相続税や贈与税の計算基準となる土地の1平方メートル当たりの価格です。時価の約8割程度とされており、固定資産税評価額よりも高い評価額となります。

路線価は税務上の評価基準としては有効ですが、時価の原則を満たすものではないため、遺留分侵害額請求における最終的な判断基準にはなりませんが、8割で割り戻した額を時価とみなすことがあります。

公示地価

公示地価は国土交通省が発表する不動産の評価です。市場の動向を正確に反映しているため、時価に非常に近い評価額(約100%)とみなされ、交渉段階で客観的な時価を主張する際の根拠の一つとなります。

基準地価

基準地価は都道府県が発表する不動産の評価です。公示地価同様、市場の動向を正確に反映しているため、時価に非常に近い評価額(約100%)とみなされ、交渉段階で客観的な時価を主張する際の根拠の一つとなります。

不動産鑑定評価額

不動産鑑定評価額は、国家資格を持つ不動産鑑定士が、現地の状況や市場性、法令上の制限などを総合的に判断し、評価した価格です。この鑑定評価書は、市場価格を最も客観的かつ総合的に反映したものとして、裁判所が最も重視する強力な証拠となります。

評価額の対立が激化し、訴訟に発展した場合、当事者が提出する鑑定評価書や、裁判所が選任した鑑定士による評価が、最終的な価格決定の根拠となります。

不動産鑑定評価の依頼費用は一般的に高額(20万円から100万円程度)ですが、不動産の評価額の差が遺留分侵害額に大きく影響する場合(例えば、評価額が1,000万円変われば、遺留分額は250万円変動する)、費用をかけてでも鑑定を依頼する価値があるといえます。

不動産評価方法の比較と遺留分算定における法的効力

評価方法 決定機関・根拠 時価との乖離度 遺留分算定における法的効力
固定資産税評価額 市町村(固定資産課税台帳) 約60~70% 主張の根拠としては弱い。交渉初期の目安。
相続税路線価 国税庁 約80% 相続税評価基準。時価主張の根拠としては限定的。
公示地価 国土交通省 約100% 時価の客観的な裏付けとして有力。
基準地価 都道府県 約100% 時価の客観的な裏付けとして有力。
不動産鑑定評価額 不動産鑑定士 100% 紛争時、裁判所が最も重視する強力な証拠。

判例が採用するのは相続開始時の時価

遺留分侵害額を算定する際の不動産の評価基準は、被相続人が亡くなった相続開始時(死亡時)における時価(実勢価格)によるべきことが、裁判所の基本的な判断基準として確立されています。

裁判所が求める時価とは、その不動産が自由な市場において、適正かつ公正な条件で取引されると想定される客観的な交換価値を指します。これは、単に当事者の一方が「これくらいの価値があるだろう」と主張する主観的な価格ではなく、客観的な証拠によって裏付けられる必要があります。

時価を裏付けるデータとしては、地価公示価格、近隣の類似不動産の取引事例、そして最も権威がある不動産鑑定評価などが用いられます。

通常は、遺留分侵害額請求をする側と請求される側がそれぞれ不動産会社に査定をしてもらい、折り合いがつけばその金額を時価として交渉や調停、裁判上の和解がなされますが、折り合えない場合には不動産鑑定士による鑑定が必要となります。

裁判所は、当事者の公平性を確保するため、最終的に公正かつ中立的な第三者である不動産鑑定士による評価(不動産鑑定評価額)を採用することが一般的です。裁判所が鑑定評価を強く推奨する背景には、当事者の主観や税務上の評価額ではなく、客観的な市場価値を判断基準とすることで、公平な金銭的解決を図るという目的があります。

遺留分として600万円しか提示されなかった依頼者が1550万円を獲得した解決事例

事案の概要と不当な遺言内容(長女50万円、二女に全て)

お問い合わせ被相続人(母)が公正証書遺言を残し、長女(相談者)には50万円のみを相続させ、その他の全財産を二女に相続させるという内容でした。長女の遺留分(法定相続分1/2のさらに1/2、すなわち1/4)が大きく侵害されたため、長女はリンクスの弁護士に依頼し遺留分侵害額を請求しました。

当初、二女は遺言に基づき既に長女に50万円を支払っていましたが、これは遺留分としては不当に低い額でした。長女の依頼を受けた弁護士は、正確な財産調査を開始しました。

評価を巡る争点:不動産の秘匿と特別受益の可能性

このケースの交渉における最大の障害は、二女による財産の秘匿と評価の過小主張でした。

二女は、母親の預金通帳の開示を拒否し、不動産の一部についても「20年前に売った」などと主張し、財産内容を正確に伝えようとしませんでした。さらに、長女の遺留分請求に対して、「そんな(多額の)お金は出せない」「600万円」と一方的な低額回答を提示していました。

相続財産の調査と評価の確定

リンクスの弁護士は、交渉が進まない中で、二女が選任した税理士が相続税の申告手続きを進めているという情報を得ました。弁護士がこの税理士に対し、相続税申告書類の開示を要求した結果、財産の全体像が判明しました。

リンクスの弁護士は、不動産会社に査定を取り、遺産総額を約6600万円と確定しました。これにより、長女の遺留分は約1650万円、既払い分の50万円を差し引いた遺留分侵害額は約1600万円であることがわかりました。

弁護士による約1600万円の請求

二女の主張する600万円は、弁護士が客観的な時価ベースで算定した遺留分額と大幅に乖離していました。弁護士は、不動産の客観的な時価評価を根拠に二女の主張を否定し、遺留分侵害額の金銭支払い義務が履行されない場合は、不動産を差し押さえて売却し、請求額を確実に回収する法的手段があることを示唆しました。

評価確定交渉の戦略と最終的な解決(1550万円の獲得)

その結果、当初二女が提示した50万円から、弁護士交渉の結果、既払い分を含めて合計1550万円(50万円に加えて別途1500万円)を支払うことで合意が成立しました。

遺留分を請求する側の不動産評価についての戦略

遺留分権利者側は、相手からの低額な提示を乗り越え、適正な遺留分額を獲得するために、入念な準備と迅速な行動が求められます。

遺留分侵害額請求権の時効の阻止

家族信託のご提案遺留分侵害額請求権には、相続の開始および遺留分侵害の事実を知った時から1年間という厳格な時効が定められています。不動産の調査、評価の確定、そして相手方との交渉には時間を要するため、この1年という期限は非常に短いものです。

評価額を確定させている間に時効が迫るリスクを避けるためにも、遺留分侵害の事実を知った時点、あるいは相続開始後速やかに弁護士に相談し、時効の完成を防ぐための措置(内容証明郵便の送付など)を先行して行うことが不可欠です。弁護士は、権利保全措置を先行させ、時間的プレッシャーを管理しつつ、評価を進める役割を担います。

請求側が準備すべき評価資料と証拠

まず、被相続人が所有していた不動産をすべて特定するために、法務局で登記簿(全部事項証明書)を取得したり、必要に応じて市町村役場を通じて「名寄帳」を取得します。

不動産の特定後、固定資産税評価証明書を取得した上で、複数の不動産会社に査定を依頼し、実勢価格を把握します。

遺留分侵害額の計算

ステップ 内容(計算要素) 実務上の留意点
1. 遺留分の基礎となる財産額 相続開始時の財産価額+贈与財産価額(原則10年分)− 相続債務全額 不動産の「評価時点」は相続開始時。評価方法(時価 vs 固定資産評価)が最大の争点。
2.各自の遺留分の割合 総体的遺留分割合(例:子のみの場合は1/2)×法定相続分 遺留分権利者により割合が異なる(兄弟姉妹は遺留分なし)。
3. 各自の遺留分額 1.遺留分の基礎となる財産価額×2各自の遺留分の割合 各遺留分権利者固有の請求額を特定する。
4. 遺留分侵害額 各自の遺留分額-遺産分割で取得する額-特別受益の額+遺留分権利者が承継する相続債務額 請求された側は請求する側が生前贈与を受けていたことなどの特別受益の証明により、請求額を減額できる可能性がある。

遺留分侵害額の計算における最初のステップは、遺留分算定の基礎となる財産額(基礎財産)を確定することです。これは「被相続人が相続開始時において有した財産の価額」に「被相続人が贈与した財産の価額」を加え、そこから「被相続人が負っていた債務の全額」を差し引いて算出されます。

基礎財産を算定する際、被相続人が負っていた債務の全額は控除されます。この負債の額が不動産の評価価値に比べてどの程度あるのかを確認することは、実際に支払うべき遺留分侵害額を算定する上で極めて重要です。特に、不動産に多額の抵当権が設定されていた場合、負債控除後の基礎財産は大幅に減少し、結果として遺留分額も低くなる可能性があります。

遺留分請求を受けている側の不相談評価についての戦略

遺留分請求を受けた側は、感情的に反発するのではなく、法的原則に基づいた客観的な対応を採ることが、無用な訴訟リスクや追加費用の発生を防ぐ鍵となります。

安易な財産秘匿や低額主張のリスク

解決事例でも見られたように、財産を隠匿したり、客観的な根拠なく不当に低い評価額を主張したりする行為は、かえって相手方(請求者)の不信感を強め、交渉の長期化や訴訟への移行を招きます。

弁護士が介入した場合、最終的には裁判所が要求する公正な時価での評価が求められるため、安易な低額主張は避けるべきです。客観的な資料に基づいた適正な評価額を提示することが、合理的な解決への近道となります。

請求額の適正確認と「特別受益」の正確な評価

受遺者側の防御戦略として、遺留分権利者が過去に受けた「特別受益」の存在を確認し、その価額を正確に評価することが挙げられます。特別受益とは、遺留分権利者が生前、被相続人から「婚姻若しくは養子縁組のため」または「生計の資本として」受けた贈与を指します。具体的には、持参金や嫁入道具、「生計の資本」としての住宅購入資金、開業資金などがこれに該当します。

遺留分権利者が特別受益を受けていた場合、その財産の価額は遺留分額から控除されます。これにより、受遺者が支払うべき現金負担を大幅に軽減できる可能性があります。受遺者は、請求額の適正性を確認する過程で、過去の金銭移動や贈与の証拠を詳細に調査し、特別受益として認定されるべき贈与がないかを確認する必要があります。

さらに、遺産分割の対象となる財産が他に存在する場合、遺留分権利者が遺産分割を通じて取得すべき財産の価額も、遺留分侵害額から控除されます。これは、たとえ遺産分割が終了していない場合であっても、具体的相続分に基づいて算定された取得価額が用いられます。

請求額が適正なのかを確認するには、弁護士に相談することが望ましいです。

不動産の売却または代償金支払いの検討

遺留分侵害額は金銭で支払う義務があるため、請求を受けた側は、不動産を保持し続けたい場合、その評価額に基づいた代償金を準備する必要があります。多額の現金が不足している場合、不動産の一部を売却したり、担保に入れてローンを組むなど、代償金を支払うための資金調達を現実的に検討することが重要です。

交渉では、現金化に要する合理的な時間的猶予を求めること、および具体的な支払い計画を提示することが重要です。例えば、一括払いが困難であれば、利息を付けての分割払いや、支払いの長期猶予などを提案します。

裁判所へ「支払期限の許与」を求める手続きの活用

分割払いや支払い猶予を認めてもらえず裁判を起こされた場合には、裁判所に「支払期限の許与」を求める手続きを取ることが考えられます。民法第1047条第5項は、受遺者または受贈者の請求により、裁判所が債務の全部または一部の支払いについて「相当の期限」を許与することができると定めています。

この規定は、受遺者等が、不動産などの換金しにくい財産しか持たない場合に、直ちに支払いを強制されることによる財産喪失を防ぎ、受遺者等の保護を図ることを目的としています。この「期限の許与」の決定を得ることで、受遺者は、数カ月や1年といった合理的な時間的猶予を法的に確保し、その間に現金を捻出する具体的な行動に移ることができます。

裁判所が期限を許与するか否かを判断する際、受遺者等が単に「お金がない」と主張するだけでは不十分です。以下の客観的な状況と実行計画を立証する必要があります。

  1. 流動性不足の客観的証明: 不動産が主要な相続財産であり、直ちに金銭を用意できない現在の資産状況を立証する。

  2. 現金化に向けた具体的な計画: 許与期間中に不動産担保ローンを利用する計画、または不動産の分筆や売却手続きを進める具体的な計画を提示する。不動産会社の査定書や、金融機関の融資に関する仮審査結果などを証拠として提出することで、裁判所への信頼性を高めることができます。

  3. 許与期間の合理性: 請求する期間が、提案された現金化の手段(融資、売却)にとって合理的な長さであること。

この手続きは、受遺者が強制執行のリスクを一時的に回避し、戦略的な資金調達を行うための時間的基盤を提供する上で不可欠です。

複雑な不動産評価問題を解決するために弁護士に相談すべき理由

遺留分侵害額請求における不動産評価の確定は、単に公的評価額を確認する作業ではありません。これは、時価の原則に基づいた客観的な評価の確立、特別受益や隠された財産の徹底的な調査、そしてその評価額を根拠とした高度な交渉戦略を必要とします。

一般の方が、財産の秘匿、低額主張、そして複雑な特別受益の持ち戻し計算といった問題に直面し、これらを法律に基づき適正に解決することは極めて困難です。

弁護士に依頼することで、遺留分権利者は、感情的な対立から解放され、交渉窓口を専門家に一本化できます。そして最も重要なことは、弁護士は公的な調査権限や、不動産を背景とした強制執行の可能性を交渉の武器として利用できることです。事例のように、相手方が財産隠匿や不当な低額主張に固執する場合でも、弁護士の存在が、適正な評価額に基づいた高額な解決を導くための決定的な要因となります。

遺留分侵害額請求権には厳格な時効(1年)が存在するため、不動産評価に疑義が生じた場合や、相手方の提示額が不当に低いと感じた場合には、迅速に専門家である弁護士に相談し、権利保全と適正評価の実現に向けた手続きを開始することが最も賢明な選択です。

相続財産が実家などの不動産しかない場合でも、遺留分を現金で受け取ることは可能です。2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分は原則として金銭で請求する権利(遺留分侵害額請求権)となったためです。これにより、遺産が不動産のみであっても、侵害された遺留分に相当する金額の支払いを求めることができます。

しかし、請求する側は「不動産の価値をどう評価すればいいのか」、支払う側は「現金がないのにどうすればいいのか」という新たな悩みに直面します。この問題は、相続人間の感情的な対立を生みやすく、当事者同士での解決は非常に困難ですので、弁護士への相談が必要です。

遺産相続に強い弁護士への無料相談が必要

このように、遺留分侵害額請求は方法が難しい上に、1年という短期の消滅時効がありますので、できる限り早い段階から、遺産相続に強い弁護士への無料相談をされることをお勧めしております。

とりわけ、相手方が早期に遺留分を支払わない場合には、消滅時効が成立しないよう、訴訟を視野に入れた対応を検討しなければなりません。

その場合には、遺留分請求訴訟の経験がある弁護士に依頼する必要が出てきます。

法律事務所リンクスでは遺産相続問題に強い弁護士が、遺留分侵害額請求をしたい方のための無料相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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代表弁護士 藤川 真之介
弁護士登録番号35346

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