特別受益に当たる生前贈与とは?持ち戻しや10年問題を解説
特別受益を認めてもらうにはどうすればよいですか?
特別受益とは?
特別受益とは、相続人が、お亡くなりになられた被相続人から生前贈与等の特別な利益を受けていた場合に、その分を相続で受け取る財産から差し引く制度です。
特別受益がある場合、相続財産に特別受益の持ち戻しをして計算することになりますが、計算式が複雑な上、10年前の生前贈与を持ち戻すかという難しい問題もあります。これについては、最後に説明することにします。
持ち戻しが免除される場合
特別受益制度は、「特別」な利益を受けた相続人と他の相続人との間の公平を図るためのものですので、生前贈与等が公平を害するほどではない場合には、相続の際の取り分から差し引きされません。
また、次のような場合にも、相続の際の取り分から差し引きされません。
- 被相続人が、相続の際の取り分から差し引かなくてもよいという意思表示を明示的にしていた場合(明示の意思表示)
- 被相続人と相続人との関係や贈与時の状況からして、相続の際の取り分から差し引かなくてもよいという意思が明らかにくみ取れる場合(黙示の意思表示)
このような場合には、他の相続人との間の公平よりも、被相続人の意思が優先されるからです。
特別受益かどうかが問題となる5つの場合
では、どのような場合に特別受益が認められるのか、次の5つの場合を見て行きましょう。
- 婚姻・養子縁組のための贈与
- 学費
- 不動産・住宅資金の贈与
- 遺贈
- 生命保険金
1 婚姻・養子縁組のための贈与が特別受益になる場合とは?
婚姻・養子縁組のための贈与が、特別受益に当たるかどうかは、その金銭の性質によって判断することになります。
①結納金・挙式費用
結納金は婚姻・養子縁組の準備金であり、挙式の費用は婚姻・養子縁組に要する実費ですので、よほど高額でない限り、特別受益には該当しないと考えられています。
②持参金・支度金
持参金・支度金は高額であることが多く、婚姻・養子縁組に不可欠の費用ではありませんので、特別受益に該当するとされることが多いです。他の相続人との公平を図る必要が高いからです。
もっとも、被相続人が明示または黙示に特別受益とはしない旨の意思表示をしていれば、相続の際の取り分から差し引きされません。
2 学費が特別受益になる場合とは?
学費が特別受益に当たるかどうかは、どのような学校の学費であったかによって判断することになります。
①高校までの学費
現在では、高校までの学費を支出することは、親としての扶養義務の範囲内であると考えられており、特別受益には該当しないとされています。
②一般的な大学の学費
特別受益に該当する可能性があります。ただし、その家族において全員が同程度の教育を受けている場合には、その金額に多寡があっても、特別受益に該当するとまではいえないと思われます。
これに対して、一部の相続人が大学に進学したという場合には、特別受益に該当する可能性がありますが、その他の相続人が大学に進学しなかった経緯等も踏まえて、総合的に判断する必要があると思われます。
③私立の医学部や海外留学、大学院の学費
一部の相続人のみがこれらの学費の援助を受けている場合には、特別受益に該当する可能性が高いです。
以上についても、被相続人が明示または黙示に特別受益とはしない旨の意思表示をしていれば、相続の際の取り分から差し引きされません。
3 不動産・住宅資金の贈与が特別受益になる場合とは?
原則として特別受益に該当します。もっとも、被相続人の家業への従事や介護のために贈与したと考えられる場合には、特別受益としない余地もあると考えます。
4 遺贈が特別受益になる場合とは?
遺贈とは、遺言によって遺産を一方的に贈与することです。
相続人に対する遺贈については、どのような趣旨の贈与であるかどうかにかかわらず、すべて特別受益となりますが、遺言書に特別受益としない旨の明示の意思表示が書いてあったり、遺言書の記載からして相続とは切り離して別途遺贈する趣旨が明らかな場合などには、相続の際の取り分から差し引かなくてもよいことになります。
したがって、特別受益となるかどうかは、遺言書をどう解釈するかという問題になります。
5 生命保険金は特別受益になる?
法律上は、受取人が保険契約に基づいて取得する金銭と考えられており、遺贈や贈与に基づくものとは異なると考えられています。
もっとも、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率等によっては、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に著しい不公平が生じますので、そのような場合には、特別受益となる可能性があります。
特別受益の計算方法
相続人が、お亡くなりになられた被相続人から特別な利益を受けた場合、その利益を計算上で相続財産に持ち戻して、遺産を分けることになります。その結果、特別な利益を受けていた人は、法定相続分よりも受け取る遺産が減り、特別受益を受けていなかった人は、法定相続分よりも受け取る遺産が増えることになります、
これは「特別受益の持ち戻し」と呼ばれ、特別受益の計算の出発点になります。
以下では、特別受益の持ち戻しから、各相続人の取り分が決まるまでの計算方法について、生前贈与があった事例に基づいて説明します。
生前贈与があった場合の特別受益の計算例
父(被相続人)が死亡して、長男と次男が相続人になりました。自宅不動産(2500万円)と預金(1500万円)の遺産(総額4000万円)の分割が問題となっています。
通常であれば、長男と次男は、法定相続分である2分の1に当たる2000万円ずつを取得することになります。
しかし、次男が進学、結婚、自宅を購入するなどした際、父から特別な援助を受けていた場合には、これを「特別受益」として次男の取り分から差し引くことができます。
では、例えば600万円の援助を受けていた場合、特別受益の持ち戻しから、各相続人の取り分が決まるまで、どのように計算を進めるべきでしょうか。
特別受益の持ち戻し
まず、その援助額を遺産に持ち戻して、援助がなかった場合に現存していたであろう相続財産(みなし相続財産)を算出します。
4000万円(遺産総額)+600万円(生前贈与)=4600万円(みなし相続財産)
各相続人の取り分の計算
みなし相続財産に法定相続分である2分の1を掛けて、各相続人の取り分を計算します。
長男の取り分
4600万円÷2=2300万円(各相続人の取り分)
これが長男の相続における取り分になります。
次男の取り分(特別受益の差し引き)
次男が相続で受け取る額は、2300万円の取り分から既に受け取っている600万円の特別受益を差し引いたものになります。
2300万円-600万円=1700万円
特別受益における10年問題
特別受益と検索すると、「特別受益 10年」というキーワードが出てきますので、特別受益における10年問題を説明します。
持ち戻しの対象期間
遺産分割における持ち戻し
まず通常の遺産分割の場合、「生前贈与から10年経てば持ち戻しをしなくてよい」「10年以上前の贈与は自分の取り分から差し引かなくてよい」ということはありません。例えば、先ほどの例の600万円の贈与が10年以上前にされたものであったとしても、その贈与は持ち戻しますし、特別受益を受けていた人の相続の取り分から差し引かれますので、ご注意ください。
遺留分の請求における持ち戻し
これに対して、遺留分を請求する場合の特別受益の取扱いは、次のようなルールになっています。
- 10年以上前の贈与の持ち戻しはしない
- 10年以上前の贈与は遺留分の請求から差し引く
非常に難しい問題があるので、詳しくお知りになりたい方は「遺留分の計算方法」をご覧ください。
相手方の特別受益を主張できる期限(2023年4月1日施行の民法改正)
これまで遺産分割において相手方の特別受益を主張できる期間の制限はありませんでしたが、改正民法904条の3により次の期間制限が設けられることになりましたので、ご注意ください(例外あり)。
- 相続開始日が2018年4月1日以降 相続開始から10年
- 相続開始日が2018年3月31日まで 2028年3月31日
遺産相続に強い弁護士への無料相談が必要
このように、特別受益には、特別受益として認められるか、持ち戻しの対象になるか、計算方法など様々な難しい問題がありますので、遺産相続とりわけ特別受益に強い弁護士への無料相談をされることをお勧めしております。
遺産相続の専門家には、弁護士のほかに、司法書士、税理士がいます。
司法書士は登記の専門家、税理士は税の専門家ですが、法律の専門家ではないため、法的に難しい問題が生じた時に対応ができません。
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