証拠がない特別受益を認めさせるには?メモで立証責任は果たせる?
特別受益を認めてもらうにはどうすればよいですか?
間接的な証拠としては、故人の出金記録、メールやLINE、手紙、日記、メモ、不動産登記簿などがありますが、これらの間接証拠を基に特別受益があったことを立証するには弁護士の協力が必要不可欠です。
親族間の金銭のやり取りは証拠が残りにくく、特に高額な贈与が行われたにもかかわらず「証拠がない」という状況は頻繁に発生します。
このページでは、法律事務所リンクスの遺産相続に強い弁護士が、特別受益を主張する側がいかにして立証責任を果たすべきか、また主張を受けた側はいかに防御すべきかについて、詳細に解説します。
特別受益とは何か?誰が立証責任を負うのか?証拠は?
特別受益の主張が法的に認められるためには、その定義、目的、そして成立要件を正確に理解し、それらの要件が満たされていることを証拠によって示す必要があります。
特別受益の定義と「持ち戻し」の原則
特別受益(民法第903条)とは、相続人の中に、被相続人から生前に特別な贈与(生前贈与)を受けたり、遺言によって財産を受け取ったりする遺贈を受けた者がいる場合に、その利益を指します。
この制度の目的は、相続人間の公平を図ることにあります。特定の相続人が受けた利益は、実質的に「遺産の前渡し」と見なされます。そのため、原則として、その特別受益の価額を相続財産に加算し直して(これを「持ち戻し」といいます)、分割の基礎となる財産を算定します。その後、具体的な相続分を計算することで、最終的な受け取り分を調整する仕組みになっています。
特別受益の成立要件:「扶養の範囲を超える」贈与とは
特別受益として持ち戻しの対象となるのは、被相続人から相続人に行われたすべての財産の移動ではありません。民法は、特定の目的を持った多額の贈与に限定しています。具体的には、以下のいずれかに該当する、かつ通常の「扶養義務の範囲」を超えていることが絶対的な要件です。
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婚姻のための持参金や支度金
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養子縁組に際しての持参金
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生計の資本としての贈与(生計の基礎を築くための支援)
特に実務上争点となりやすいのが「生計の資本としての贈与」です。これは、生活費、住宅を購入するための資金、または事業を行うための資金援助など、相続人の生活基盤を形成するために役立つ支援を指します。
例えば、住宅購入資金の援助は、相続人の生活に役立つ生計の資本の贈与そのものであり、高額で扶養の範囲を超えるのが通常であるため、特別受益として認められる典型例です。同様に、事業の開業資金や運転資金の提供も、特別受益として認定される可能性が高いとされています。
一方で、通常の学費、特に現在では大学進学が一般化しているため、大学までの学費を親が負担することは扶養の範囲内とみなされ、原則として特別受益とはなりません。ただし、留年や転校を繰り返した結果、通常の扶養の範囲を逸脱していると判断されるほどの過度な費用が発生する場合は、例外的に特別受益が認められる可能性が生じます。
特別受益の立証責任は主張側にある
特別受益の存在を主張する相続人側が、その贈与の事実と、それが特別受益の要件(高額性や生計の資本性)を満たすことを証明する責任を負います。これは、利益を得ようとする側が、主張の根拠となる事実を裁判所に証明する必要があるという、金銭を巡る紛争における一般的な原則に基づいています。
したがって、どれだけ他の相続人が不公平だと感じていても、主張する側が具体的な証拠を提示できなければ、裁判所はその贈与の事実を認定することができません。結果として特別受益の主張は認められず、主張側の敗訴に繋がることになります。
特別受益を証明するための証拠
特別受益を証明する直接証拠
贈与の事実や目的を直接的に証明できる資料は、紛争解決における決定打となります。
直接証拠の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
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贈与契約書
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遺言書(遺贈の場合)
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被相続人または受益者の預貯金の取引履歴(高額な入出金記録)
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被相続人の意向が記された日記、メモ、手紙、メール、LINE
しかし、多くの相続紛争では、親族間の生前贈与が契約書を交わすことなく、また記録を残す意識もなく行われているため、これらの決定的な直接証拠はないことがおおいです。
特別受益を証明する間接証拠(状況証拠)
間接証拠とは、贈与の事実そのものではなく、贈与の目的、贈与の直後に発生した結果、あるいはその他の状況を裏付ける資料を指します。複数の間接証拠を組み合わせることで、裁判所に対して「贈与があった」という強力な合理的な推認を抱かせることが戦略の核心となります。
不動産・住宅購入資金の立証
住宅購入資金の贈与を主張する場合、贈与された金額そのものの記録がなくても、以下の公的資料を通じて立証を試みます。
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不動産の登記簿謄本: 受益者が不動産を購入した時期と、その資金源となる高額の資金が必要であった事実を証明します。
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固定資産税評価証明書、路線価図: 不動産の公的な評価額を把握できます。
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不動産の評価: 特別受益の算定においては、相続開始の時点における不動産の評価額を明らかにする必要があります。一般的には、不動産業者の査定による**実勢価格(市場価格)**が用いられますが、全相続人の合意があれば、固定資産税評価額や路線価などの公的評価額を参考にすることも可能です。
主張戦略としては、受益者が自己資金のみでは住宅購入が困難であった時期に、被相続人の口座から高額な資金が移動し、直後に不動産を購入したという「資金の流れの結果」を提示することで、贈与の事実と目的を強く示唆します。
事業・開業資金の立証
事業開業や拡大資金の援助を主張する場合、以下の証拠収集が有効です。
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商業登記の履歴事項証明書: 会社設立や資本金の増資の時期を証明します。
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事業用口座の取引履歴: 事業が開始された直後の資金の流れや、被相続人から提供された資金の使途を追跡する手がかりとなります。
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開業届の控え: 事業開始の公的記録となります。
これらの資料と、後述する被相続人の金融機関からの調査嘱託によって得られた高額な出金記録とを突き合わせることで、資金提供の事実を証明します。
被相続人の意図を示す資料
贈与の事実だけでなく、その贈与が他の相続人への前渡しとして行われたのか、すなわち「生計の資本」の提供であったのかを示すために、被相続人が残した日記や手紙、あるいはメールの内容が重要な間接証拠となります。これらの資料は、主張側だけでなく、後述する反論側が「持ち戻し免除の意思」を立証する際にも利用されます。
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特別受益主張する側の立証活動~不動産の購入代金の贈与を認めさせた事例を基に
特別受益の主張は、単に金銭の移動があったことを示すだけでなく、「生計の資本として贈与された」という移動の目的を証明する点に難しさがあります。特に直接証拠が見つからない場合、贈与の「結果」や「状況」を示す間接証拠(状況証拠)を積み上げ、贈与の存在を合理的に推認させることが極めて重要となります。
次の紹介するのは、受益者である長男が自己資金のみでは住宅購入が困難であった時期に、被相続人の口座から高額な資金が移動し、直後に不動産を購入したという「資金の流れの結果」を提示することで、住宅購入資金の贈与を認めさせることに成功した事例です。
相談の経緯
依頼者は、被相続人から長男にマンション購入代金を贈与したことを聞いていましたが、契約書や遺言書、メモのような直接的な証拠を持っていませんでした。
そこで、長男の特別受益を証明したいと考え、法律事務所リンクスの弁護士の無料相談を利用した上で、依頼をされました。
リンクスの弁護士が立てた方針
法律事務所リンクスの弁護士は、被相続人の通帳に残っている送金記録や不動産の購入時期から特別受益を証明できないかと考え、取引履歴や不動産登記簿といった資料を収集することとしました。
その結果、送金時期と不動産の購入時期が近接していることが明らかになりました。もっとも、不動産登記簿に住宅ローンを借りている記載があったことから、住宅購入資金の贈与は受けていないと主張することが予想されました。また、それ以前の時期に長男側から被相続人に送金があった記録も残っており、貸付金の返済を受けただけであるなどと言い逃れすることも予想されたました。
そこで、外堀を埋めてから突き付ける戦略をとることにしました。
リンクスの弁護士による外堀を埋める戦略
リンクスの弁護士は、まず、長男が被相続人から送金を受けた時期の生活状況を聞くこととしました。その結果、当時の長男は、若年のサラリーマンであり、長男が被相続人に貸し付けるだけの資力がないことが明らかになりました。
また、当時のマンションの売り出し価格を調査し、住宅ローンだけではマンションを購入できないことが明らかになり、長男に送金時期と不動産の購入時期が近接していることを突き付けたところ、長男も生前贈与を認めることとなりました。
「証拠がない」状況で特別受益を立証するための3つの戦略
本件は受益者に生前贈与を認めさせることに成功しましたが、受益者が生前贈与を否定する場合もあります。このような場合に、特別受益の主張を成立させるためには、間接的な状況証拠の積み重ねが不可欠です。以下に、専門的な知見に基づいた「攻め」の戦略を3つ提示します。
戦略1: 資金の流れと使途の「合理的な関連性」を追及する
単に被相続人の口座から高額な出金があったという事実だけでは、特別受益とは断定されません(「お金に色は付いていない」原則)。そこで、主張側は、その資金が受贈者の生活基盤の形成に充てられたという合理的な関連性を立証しなければなりません。
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取引履歴の網羅的な収集: まず、被相続人(故人)の全銀行口座の取引履歴を収集して、特別受益を受けたと思われる相続人への送金がないか過去10年間分を徹底的に調査します。
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「時間軸の特定」と「使途の推定」: 被相続人の大口出金と、同時期に行われた受贈者による高額な支出(例:不動産の契約金、住宅ローンの頭金、事業開業の初期費用など)を特定し、両者の間に密接な因果関係があることを示唆します。売買契約書や請負契約書といった不動産関連の公的文書は、資金使途を推定する強力な間接証拠となります。
戦略2: 受贈者の「自己資金源の不合理性」を指摘する
特別受益を受けた相続人が、「自己資金で賄った」という反論をしてきた場合、その矛盾点を突きます。受贈者が高額な不動産を取得しているにもかかわらず、自身の退職金や預貯金だけでは到底賄えないことを論理的に反証します。
例えば、 贈与の事実を否定する側の資金源(退職金、ローンなど)の具体的な金額と、実際の購入費用の差額を指摘することで、被相続人からの援助がなければ資金が不足していた事実をするアプローチを取ります。
戦略3: 遺産隠蔽や使途不明金の追及を「切り札」とする
特別受益の立証が難しい場合でも、遺産全体の公平性を担保するために、申立人側が遺産総額を増やすための「攻め」を行うことは非常に有効です。特に、相手方による遺産の使い込みや隠蔽を追及することは、調停交渉で優位に立つ切り札となります。
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使途不明金の特定と釈明要求: 被相続人の口座履歴から、客観的な使途が不明な大口の出金(を特定し、遺産管理者に対し、その具体的な支出内訳を裁判所を通じて釈明するよう求めます。
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心理的優位性の確保: この追及により、相手方の財産管理の不透明性が露呈し、特別受益の有無に関わらず、相手方を和解に傾かせる心理的な圧力をかけることができます。
特別受益の主張を受けた場合の「反論側」の防御戦略
特別受益を指摘された相続人(受益者)側は、指摘された贈与の事実や、それが特別受益の要件に該当するかを争うだけでなく、法的に最も強力な防御手段である「持ち戻し免除の意思表示」の存在を立証することが重要となります。
贈与の事実否認と要件不該当の主張
最も基本的な防御戦略は、主張された特別受益の事実そのものを否定すること、または特別受益の要件を満たしていないと主張することです。
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否認: 被相続人の口座からの高額出金があったとしても、それは指摘された受益者への贈与ではなく、被相続人自身の生活費や、他の目的のために使用されたことを具体的に反論します。
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要件不該当の主張: 贈与があった事実は認めるものの、その金額や性質が「扶養義務の範囲」を超えていないと主張します。例えば、一時的な病気や生活苦に対する支援であり、生計の資本を形成するものではなかった、と主張することが考えられます。
最強の防御:「持ち戻し免除の意思表示」の立証
特別受益の制度は、被相続人の意思よりも相続人間の公平を優先する制度ではありません。したがって、被相続人が生前、特定の贈与については遺産に持ち戻さないという意思(持ち戻し免除の意思表示)をしていた場合、その贈与は特別受益の計算対象から除外されます。これは、受益者側にとって最も強力な防御手段となり得ます。
明示の意思表示と文書による証明
持ち戻し免除の意思表示をするにあたり、法律上特定の方式は指定されていません。そのため、遺言書や贈与契約書などの公的な文書だけでなく、被相続人が作成したメモや日記などの私的な文書によっても、その意思が明確に示されていれば有効です。これらの文書が発見されれば、主張を大きく有利に進めることができます。
黙示の意思表示の立証と合理的な理由
文書による明示的な意思表示がない場合でも、特定の相続人を優遇することに「合理的な理由」が存在し、被相続人が持ち戻しを免除する意思を持っていたと推認できる場合、黙示の意思表示が認められることがあります。
合理的な理由として考慮される具体例には、以下のような事情が存在する場合が挙げられます。
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事業承継への長年の貢献: 受益者が被相続人の事業に対して長期間にわたり特別な貢献をしてきた。
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特別な介護・扶養への寄与: 受益者が被相続人の療養看護や扶養に対して、通常期待される程度を超えた特別な寄与を行っていた。
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特定の相続人の経済的困窮状態への対応: 他の相続人と比べて著しく経済的に困窮している状況に対し、緊急性の高い支援を行った。
これらの事実は、単に特別受益の主張に対する防御として機能するだけでなく、受益者が自らの貢献(寄与分)を主張するための証拠とも重複するため、防御戦略の重要な核となります。
配偶者居住用不動産における推定規定の活用
2019年の民法改正により、配偶者保護の強化が図られました。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅などの居住用不動産が贈与または遺贈された場合、被相続人には持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
受益者である配偶者は、この推定規定の適用を主張するだけで、原則として遺産分割において持ち戻す必要がなくなり、極めて強力な防御を確立できます。
【想定FAQ】特別受益の「証拠がない」に関する重要な疑問
Q: 故人の預金通帳に残る不明瞭な高額出金は特別受益として認められますか?
A: 高額な出金記録は、特別受益の存在を推測させる重要な証拠の一部ではありますが、それだけをもって特別受益として認められることはありません。裁判所が特別受益を認定するためには、その資金が特定の相続人に対して「生計の資本として」贈与されたこと、つまりその使途と目的を間接証拠によって立証する必要があります。単なる高額な出金は、被相続人自身の多額な消費や、第三者への贈与、あるいは不明な使途であった可能性が否定できないためです。
Q: 生命保険金は特別受益になりますか?
A: 原則として、生命保険金は特別受益になりません。生命保険金は、被相続人の死亡を原因として、保険会社から受取人に対し契約に基づいて支払われる固有の財産であり、遺産そのものではないと法的に解されているためです。しかし、その例外として、受け取った保険金の額が遺産総額に比して極めて高額であり、他の相続人との間の公平を著しく害すると認められる場合には、特別受益とみなされ持ち戻しの対象となる可能性があります。死亡退職金についても、原則として特別受益の対象外です。
Q: 証拠がない状態で弁護士に相談するメリットは何ですか?
A: どのような資料が特別受益を認めさせるための証拠になるかは一見しては分かりませんので、相続に強い弁護士に相談することで思わぬ立証方法が明らかになることがあります。手元にある僅かな間接証拠(メモ、不動産登記、メールなど)を法的に価値のある「合理的な推認」の論理構造に組み上げる専門知識を提供し、紛争解決に向けた確度の高い戦略を構築できます。
Q: 特別受益を主張できる期限はありますか?
A: 特別受益の持ち戻し計算そのものに時効はありません。そのため、理論上は非常に古い贈与であっても、証拠さえあれば主張可能です。しかし、遺留分侵害額請求の計算において、遺留分侵害額請求を受ける側が受けた生前贈与として持ち戻せるのは、原則として相続開始前の10年間のものに限定されます。
まとめ:特別受益の立証は専門家との連携が鍵
特別受益に関する紛争、特に「証拠がない」という困難な状況における立証は、単なる証拠集めではなく、民法の原則、家庭裁判所の調査権限、そして最新の相続法改正の内容(遺留分における10年制限や配偶者居住権の推定規定など)を総合的に駆使した高度な戦略が求められます。
主張する側にとっては、直接証拠がない場合でも、不動産登記や商業登記簿などの公的記録を利用して間接証拠を積み上げ、さらに裁判所の手続きを通じて被相続人口座の取引履歴を強制的に開示させる(調査嘱託)ことが、立証責任を果たすための重要な鍵となります。
また、主張を受ける側(受益者)にとっても、単なる贈与の否認に留まらず、被相続人の「持ち戻し免除の意思表示」の存在、特に長年の貢献や扶養の事実といった合理的な理由を証明することが、防御戦略の根幹をなします。
公平な遺産分割を実現するためには、証拠の有無にかかわらず、まずは相続法に精通した専門家(弁護士)に相談し、手元にある全ての情報を精査することが、解決に向けた第一歩となります。相続法の最新の動向や制度の詳細については、法務省などの公的機関の情報も参照しながら、適切な手続きを選択することが推奨されます。
遺産相続に強い弁護士への無料相談が必要

このように、特別受益には様々な難しい問題がありますので、遺産相続に強い弁護士への無料相談をされることをお勧めしております。
遺産相続の専門家には、弁護士のほかに、司法書士、税理士がいます。
司法書士は登記の専門家、税理士は税の専門家ですが、法律の専門家ではないため、法的に難しい問題が生じた時に対応ができません。
弁護士は、遺産相続の手続にも紛争にも精通しておりますので、遺産相続の最初から最後までトータルサポートさせて頂くことが可能です。
法律事務所リンクスでは遺産相続問題に強い弁護士が無料相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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